「浅井さん、そこまでおっしゃらなくても」水野日幸は目の前の人物を見つめた。見た目は実直そうな顔つきだが、その目の奥に隠しきれない不満が見えた。
この男は油断ならない人物だが、大きなことはできない。才能もないのに平凡な人生を送ることに甘んじられず、何か成果を上げて自分を証明したがるタイプだ。
浅井長栄は自分のしたことを包み隠さず話した。老当主の威圧に屈して、表面上は丁寧で、謝罪の言葉も十分だった。
実は浅井家の老当主が招待状を届けさせようとした時、浅井長栄がそれを知り、自分で届けると申し出て、結局約束を破って招待状を握りつぶしたのだった。
水野日幸には分かっていた。これは単に彼女に対する見せしめであり、浅井家との取引が簡単なものではないことを知らしめようとしたのだ。