第196章 自分を証明する

「浅井さん、そこまでおっしゃらなくても」水野日幸は目の前の人物を見つめた。見た目は実直そうな顔つきだが、その目の奥に隠しきれない不満が見えた。

この男は油断ならない人物だが、大きなことはできない。才能もないのに平凡な人生を送ることに甘んじられず、何か成果を上げて自分を証明したがるタイプだ。

浅井長栄は自分のしたことを包み隠さず話した。老当主の威圧に屈して、表面上は丁寧で、謝罪の言葉も十分だった。

実は浅井家の老当主が招待状を届けさせようとした時、浅井長栄がそれを知り、自分で届けると申し出て、結局約束を破って招待状を握りつぶしたのだった。

水野日幸には分かっていた。これは単に彼女に対する見せしめであり、浅井家との取引が簡単なものではないことを知らしめようとしたのだ。

浅井長栄は謝罪はしたものの、心の中では納得していなかった。

まだ若輩者の小娘に謝罪し、頭を下げるなど、面目丸つぶれだ。今後どうやって威厳を保てというのか、耐えられない。

家の老当主に叱られるのはまだしも、浅井長佑のような若造に指図されるいわれはない。

彼の商売に、若輩者が口を出す筋合いはない。

彼は長佑が常々気に入らなかった。長男とはいえ、家業に関心も示さず、役者になることばかり考えている。それなのに老当主は彼を可愛がって甘やかしている。

浅井弘は驚いた。目の前の少女は若いながらも、立ち振る舞いが適切で、話も筋道立っており、久しぶりにビジネス界で対等な相手に出会った興奮を覚えた。「では今後の協力については、すべて長佑に任せることにしようか?」

この少女は長男の不純な心を見抜き、言葉の端々に躊躇いがあることを察知して、協力するなら信頼できる窓口が必要だと明確に伝えてきたのだ。

「浅井さん、いかがでしょうか?」水野日幸は知っていた。浅井家で完全に信頼できる人物は浅井長佑だけだということを。

浅井家の老当主は七十歳になっても権限を譲らない。その最大の理由は、子孫が不甲斐ないため、安心して任せられないからだ。

浅井家の子孫たちは、浅井長佑を除いて、経営の才能も実績もない。

虎父犬子という言葉は、このような名門家にとって最も心痛むことだ。もしかすると、当主が他界した後、家運は下り坂になり、最後は没落して、先祖に申し訳が立たなくなるかもしれない。