第207章 昔はそうではなかった

長谷川邸は清正園に隣接していた。

清正園は観光客が必ず訪れる御苑で、ついでに長谷川邸にも立ち寄り、さらに奥に進むと三郷の富裕層エリアの管理区域となり、一般人は立ち入れない。

水野日幸は観光客の群れに紛れ込み、ガイドの長谷川家の歴史説明に耳を傾けながら、長谷川邸を一周し、また入口に戻ってきた。

彼女自身、なぜここに留まっているのかわからなかった。おそらく、彼が暮らしていた場所を見たかったのだろう。彼に少しでも近づきたくて、もう少し近づきたくて、あてもなく次々と観光グループについて回り、邸宅の周りを何周も歩き回った。

そして。

空が完全に暗くなった。

観光客は皆帰り、彼女だけが一人、長谷川家の正門前に立ち、長谷川邸という重厚な文字を見上げながら、複雑な思いを胸に抱えていた。