第292章 彼を庇うの

辻緒羽は曽我家の怒りの視線を無視し、長い脚をテーブルの上に乗せ、スマホを取り出して水野日幸にメッセージを送った。「機内だよ。お前は?」

水野日幸:「私も機内です」

辻緒羽:「どこにいるんだ?見当たらねぇぞ」

水野日幸:「ビジネスクラスです」

辻緒羽:「デザイナー様、ダンサー様、ファーストクラスが買えないなら言ってくれよ。俺が出してやるのに」

水野日幸:「……」

辻緒羽:「まあ残念がることはないぜ。曽我家の連中がこっちにいるからな。今から会いに行くよ」

そう言うと、リュックを肩に掛け、颯爽と立ち上がった。横目で隣に座る少年を見て、思わずまた感嘆してしまう。くそ、マジで綺麗な顔してやがる。

曽我若菜は辻緒羽が立ち去る姿を見つめ、心の中で憎しみが渦巻いていた。呼吸も乱れ始めていた。

辻緒羽のこの野郎、人をなめすぎている。いつか必ず仕返ししてやる。

辻緒羽はビジネスクラスで水野日幸を見つけ、隣の人に一言声をかけて席を交換した。

隣のおじさんは最初冗談かと思ったが、チケットを見せられると笑顔が止まらなかった。ビジネスクラスからファーストクラスへの無料アップグレード、天から降ってきた幸運だ。確認を終えると、チケットを持って立ち去った。

「さっきの曽我若菜の顔を見るべきだったな。まるで糞でも食ったみたいな顔してたぜ」辻緒羽は水野日幸の隣に座りながら言った。「俺の勘だと、あいつは俺の隣に座ってた美少年に目をつけたみたいだな」

曽我若菜って女、ただのビッチだよ。男を手玉に取るのが上手いと思い込んでるけど、実際のところ、あいつにだまされる男なんて、知能が下半身に集中してる奴らばかりだ。

水野日幸は微笑んで、何も言わなかった。

辻緒羽は彼女を見つめながら続けた。「お前、知らないだろ。俺の隣の席の美少年がどれだけ綺麗だったか。気品もヤバかった。見に行かない方がいいぜ。お前、コンプレックス感じちゃうから」

水野日幸:「そんなに綺麗なの?」

彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに。

辻緒羽は顔を上げ、ある方向を見つめたまま目を動かさなくなった。

こちらに向かって歩いてくるのは、他でもない藤田清明だった。

水野日幸は辻緒羽の腕を軽くつついて、からかうように聞いた。「あなたが私より綺麗だって言ってた人、彼のこと?」