路面から少し離れたところ。
石田文乃もバイクに乗って遅れてやってきて、降りるなり駆け寄ってきた。「緒羽様、日幸、大丈夫だった?!」
辻緒羽は眉を少し上げ、気にも留めない様子で「死にはしないさ、命があったからな!」
水野日幸は笑って「緒羽様が少し怪我をしたの」
石田文乃は、これが間違いなく高木美以の仕業だと分かっていた。二人から淡々と事の経緯を聞き、廃車になった車を見て、殺気立って踵を返した。
二人は簡単に説明したが、ブレーキが壊れて、しかもレース場でのことだ。どれほど命懸けの状況だったか想像に難くない。死の淵から生還したと言っても過言ではない。
水野日幸は彼女を引き止めた。「どこに行くの?」
石田文乃は命を取りに行くような勢いで、憤慨して叫んだ。「何をするって?あの高木美以って女、ぶっ殺してやるわ!」
くそっ。
車にいたずらをして、緒羽様と日幸をあやうく殺すところだった。殺したところで私の恨みは晴れない。
「証拠もないのに、焦らないで」水野日幸は彼女を引き戻しながら、目の奥に血なまぐさい殺気を漂わせていた。
この仇は、必ず返さなければならない。
高木美以という女は、やってみせた以上、彼らからの報復も覚悟の上だろう。
石田文乃はこの短気な性格で、我慢できず、どうしても高木美以に会いに行くと言い張り、殺せないなら、とりあえず懲らしめてやると。
水野日幸はあれこれ説得して、なんとか一時的に彼女を止めることができたが、その怒りは増すばかりで、口から罵詈雑言が途切れることはなかった。
藤田清明はすぐに辻緒羽の怪我の手当てを終え、彼を見て言った。「私にできることはやりました。病院でもう少し詳しく診てもらった方がいいですよ」
辻緒羽は唇を歪め、眉を上げて「ありがとう、坊ちゃん」
藤田清義の忍耐は限界に達していた。藤田清明を見て「処置が終わったなら行くぞ」
藤田清明は薬箱を片付ける動作を一瞬止め、勇気を振り絞って、首を突っ張らせて彼を見上げた。「兄さん、僕は行きません!」
藤田清義の冷たく厳しい目が鋭く危険な色を帯び、威厳のある声で「もう一度言ってみろ」
藤田清明は怖くなって、助けを求めるように水野日幸の方を見た。
水野日幸は肩をすくめ、自業自得だという目つきを返した。藤田家の若旦那の機嫌を損ねるなんて、とてもできない。