第396章 毒殺

辻緒羽は水野日幸の動きを注視していた。入室してから、彼女はずっと冷たい表情を浮かべ、余計な表情を見せなかったが、今のわずかな変化に、彼の心も宙吊りになった。

水野日幸が彼に醫術ができると言った時、彼は少しも疑わなかった。レース場での出来事で、すでに彼女に対して心から敬服していたので、今彼女が神仙の化身だと言っても、彼は疑いなく信じるだろう。

水野日幸の瞳の色が微かに変化した。

清水年彦は普通の植物状態ではない。これは中毒だ。神経毒素が徐々に脳を侵し、神経を麻痺させ、植物状態に似た状態に陥らせているのだ。

おそらく清水年彦が事故に遭った最初の数ヶ月は、確かに深い昏睡状態だったのだろう。しかし、この毒素こそが、彼を最終的に植物状態に追い込んだ元凶なのだ。

清水家の両親も水野日幸を見つめ、瞬きすらできないほど緊張していた。彼女の表情が変わったのを見て、不安と恐れを感じながらも、心の中で最後の希望が芽生えた。

これまで医者が息子の診察に来た時は、余計な表情を見せることはなく、慰めの言葉を掛けるか、首を振って諦めるかのどちらかだった。

しかし彼女は違う。目の前の少女は、常に冷静な様子を保っているが、今は表情が真剣になっていた。

清水叔母は興奮して前に出ようとした。

清水叔父は彼女を引き止め、首を振って医者の診察を邪魔しないように諭した。心の中の興奮を必死に抑え、希望を持つことを恐れていた。

希望が大きければ大きいほど、失望も大きくなるからだ。

水野日幸は脈を取った後、彼の心拍と鼻腔を確認し、最後に結論を出して向かい側の清水家の両親を見た。二人の絶望で灰色がかった目に、切実な光が宿った。彼女は言った。「普段使っている薬を全部持ってきてください」

この神経毒素は、一度の注射や一二日の蓄積ではない。長年月をかけて少しずつ蓄積され、清水年彦を死へと追いやっているのだ。

これは投与量を管理する必要がある。多すぎれば簡単に発覚するし、少なすぎれば最適な効果が得られない。清水年彦に注射を続けられる人物は、必ず彼の身近な人間だ。

看護師、医師、そして家族、誰もが容疑者となりうる。