第416章 お墓参りに行くの?

水野日幸は足を止めることなく、何の反応も示さず、会社の入り口に向かって普通の速度で歩き続けた。異常を気づかれてはいけない。

「水野日幸!」藤田君秋は彼女が無視するのを見て、声を大きくし、直接追いかけていった。

水野日幸は額に黒い線が浮かび、こんな格好をしているのに、どうやって分かったのだろう。無視しているのに、なぜ何度も呼びかけ、追いかけてくるのだろう。

藤田君秋も不思議に思った。たった一度しか会ったことがないのに、顔も見えないのにどうして分かったのだろう。きっと彼女の持つ雰囲気が特別なのだろう。追いついて彼女を引き止め、少し不満げに言った。「どうして無視するの?」

水野日幸は諦めたように溜息をついた。もうこうなってしまった以上、否定して逃げても無駄だ。礼儀正しく距離を置いて彼女を見た。「藤田お嬢様、こんにちは」

「藤田お嬢様なんて呼ばないで。そんなに他人行儀にしないで、叔母さんって呼んで」藤田君秋はとても親しみやすい性格で、すぐにそう言った。

水野日幸は目の前の人を見て、確かに次兄に似ているところがあると感じた。率直で、決して回りくどい言い方をせず、物事をありのままに言う。嫌いになれない人だった。

藤田君秋は彼女が答えないのを見て、自分が得をしようとしていると思われているのかと考え、さっぱりと言った。「叔母さんじゃなければ、お姉さんでもいいわ」

水野日幸はもちろんそんなに無礼なことはできない。すでに藤田家の人々から距離を置くことを決めていたのだから、軽率な行動はできない。「藤田お嬢様、冗談を」

「冗談じゃないわ。本当よ」藤田君秋はそう言うと、親しげに彼女の腕を取り、目を輝かせて言った。「あなたはこの会社と契約したの?城戸修とよく知り合いなの?私、彼のファンなの。サインをもらうのを手伝ってくれない?」

水野日幸は彼女が会社の入り口にいる理由を百通りも考えたが、まさかファン活動とは思いもしなかった。少しでも冷静さを失っていたら、目が飛び出るところだった。

藤田家の叔母が、まさかアイドルを追いかけるファンだったとは!

現状から見ると、かなり熱心で熱狂的なようだ。