人々は残念そうに夕子先生が去っていくのを見つめ、お互いを見合わせてから、撮影現場を後にした。
観客席のファンたちも散っていった。
国際クラスの一行は、一般のファンとは違い、身分が違うため、挨拶を済ませると、会場を出てすぐに楽屋へと向かい、石田文乃を探しに行った。
一橋渓吾は帰ろうとしていたが、辻緒羽に親しげに強引に引っ張られて一緒に行くことになった。国際クラスの一行は彼を取り囲み、まるで逃げられないようにしていた。
一行が堂々と前へ進んでいく中。
鈴木蛍が突然大げさに叫んだ:「夕子先生!」
水野日幸はその突然の声を聞いて顔を上げると、国際クラスの一行と大豆田秋白、そして一橋渓吾の姿が目に入った。
鈴木蛍は嬉しそうに真っ先に駆け寄り、相手の表情も気にせず:「夕子先生、私、大好きなんです!サインをいただけませんか?」
水野日幸は低い声で言った:「申し訳ありません」
「夕子先生、お願いします!一つだけサインください!」鈴木蛍はそう簡単には諦めない性格で、紙とペンも用意していた。
夕子先生は噂通り冷たい人なのだろうか、ただ、マスクの下の半分の顔がどんな様子なのか気になった。
そこで辻緒羽が適切なタイミングで制止した:「蛍、戻っておいで」
鈴木蛍は不思議そうに振り返って彼を見た。この偶然の出会いのチャンスを逃したくなかった。ただのサインなのに、何が問題なのだろう!
しかし、辻緒羽の言葉には従わざるを得ず、夕子先生に「すみません」と言って大人しく列に戻った。夕子先生が去っていくのを見届けてから、憂鬱そうにぶつぶつ言った:「緒羽様、なんで呼び戻したんですか?」
辻緒羽は振り返り、もう姿が見えなくなりかけている人を見て笑いながら言った:「焦ることはない。これからいくらでもチャンスはあるさ」
毎日一緒にいるのに、サインなんて何が必要なのか。この連中が夕子先生が水野日幸だと知ったら、どんな表情をするのか楽しみだ。
大豆田秋白はその言葉を聞いて辻緒羽を見た。狐のような目に疑いの色が浮かんだ。辻緒羽は夕子先生の正体を知っているのだろうか?
辻緒羽も彼を見返したが、何も言わなかった。
国際クラスの女子たちは、城戸修のファンということもあり、夕子先生のことも大好きだった。今回の偶然の出会いでサインや写真が撮れたらよかったのにと残念がっていた。