長谷川深が果物の盆を持って出てくると、少女が風のように一瞬で消えていく後ろ姿が見え、不思議そうに眉をひそめ、瑾智に向かって尋ねた。「日幸はどうしたの?」
こんなに慌てて。
瑾智は笑って首を振った。「お母さんが帰ってきたって言ってました。」
長谷川深は微笑み、果物の盆をテーブルに置いたところで、少女が既に戻ってきているのが見えた。後ろには車椅子に座った藤田清明が続いていた。
藤田清明は長谷川深を見ても、特別な表情を見せなかった。どうせ好きになれないものは好きになれない。彼は悪い女の子との関係を壊さないだけでも十分な善意を示しているのだ。それ以外のことは、保証できない!
長谷川深は先に挨拶をした。「藤田様。」
幼い頃から受けた良い教育のおかげで、藤田清明も他人の好意を無視することはできず、象徴的に頷いただけで、言葉は発しなかった。
水野日幸は瑾智と将棋を続け、長谷川深と藤田清明は横に座って見ていた。こうして、水野日幸以外の三人が車椅子に座っている状況は、かなり奇妙に見えた。
長谷川深は既に水野日幸の左側の位置を占めており、彼女の右側には花架が設置されていて、そこにはバラが這い上がっていた。真夏の季節で、バラは情熱的に咲いていた。
藤田清明は左右を見回し、最後には花架に目を固定した。自分が変身できて花架になれたらと願わんばかりだった。
しかし結局は、瑾智の隣に座るしかなかった。長谷川深に出て行けとは言えないし、先に来た順序は守らなければならない。
瑾智は彼に微笑みかけて尋ねた。「藤田坊ちゃんは将棋が打てますか?」
藤田清明は外部の人に対して、必要な教養と礼儀は保っていた。とても謙虚に答えた。「少しだけ。」
瑾智はこれに特に驚かず、笑って言った。「では今度時間があれば、一局付き合ってください。」
藤田清明もうなずいて承諾した。
幼い頃、父が将棋を教えてくれた。父の膝の上に抱かれて、囲碁や将棋の話を聞いたことを覚えている。
しかしその時は年が若く、将棋にも興味がなかったので、学んだのはおざなりだった。真剣に学ぼうと思った時には、父はもういなくなっていた。
長兄と次兄は父親譲りで、暇があれば将棋を指すのが好きだった。家にある将棋盤と駒は、全て父が手作りしたものだ。