第570章 その顔はどこか見覚えがある!

道中、江川歌見は彼女と会話を試みていた。人を知るには、外見を見るだけでなく、その人の話を聞くのが一番いい方法だからだ。

彼女を一目見た時から、どこかで見覚えのある顔だと感じていた。しかし、具体的にはどこで見たのか思い出せなかった。

この出雲七という脚本家は、あまりにも静かだった。出会ってから今まで、挨拶と自己紹介をした以外は何も話さず、質問されても「うん」や「ああ」という簡単な返事しかしなかった。

「出雲七先生は、あまり話すのがお好きではないようですね」江川歌見は笑って言った。「私の弟子の水野日幸は、おしゃべりなのに。彼女があなたを説得できたということは、きっと親しい間柄なのでしょうね。性格は正反対ですが」

水野日幸は心の中で思った。話したくないわけではない、ただ多く話せば正体がばれてしまうかもしれないからだ。

彼女の先生は非常に賢い人で、観察力も優れている。特に第六感は恐ろしいほど鋭く、最初に会った時から何か気づいているかもしれない。

この道中ずっと、様々な話題を探り、彼女に話をさせようとして、言葉の端々から破綻を見つけようとしているのだ。そんな罠にはかからない。

江川歌見は彼女が応答しないことに気を落とすこともなく、独り言のように話し続けた。返事があるかどうかなど気にしていないかのように。

最後に彼女に尋ねた。「出雲七先生は、誰に会うのか気になりませんか?」

日幸には言わなかったが、これは他人からの依頼だった。でも出雲七先生には言えるだろう。言わなくても、すぐに会うのだから。

水野日幸は黙ったまま、ただ彼女を一瞥した。

江川歌見は彼女が本当に何も気にしていないと思っていたが、ようやく反応を示したのを見て笑いながら言った。「もうすぐ会えますよ」

水野日幸:……

わざとだ!

これは仕返しだ!

誰に会うのか本当に知りたかった。普段は人の事に首を突っ込まない先生が、こんなに奔走するような人物とは一体誰なのか。

心の中に、不安な予感があった。第六感が告げていた。会いたがっている人は、自分の知っている人かもしれないと。

約束の場所は一品堂だった。帝都で最高の個人料理店で、会員制を採用しており、ここで食事ができる人々は皆、帝都の有力者たちだった。

江川歌見が先導していた。

水野日幸は横について歩いていた。