「聞いたよ、帝都中が知っているらしい」葛生は知らないふりを続けた。
軒袁がこんな騒ぎを起こしたのに、逆にボスから褒められて、今得意になっているところだ。曽我家に時計を贈り、一品堂から除名されて、帝都中の笑い者になってしまった。
「そう?」水野日幸は微笑んで「じゃあ、お兄さんはいつ帰ってくるの?」
葛生は警戒した表情で彼女を見つめた。「水野お嬢様」
水野日幸は華やかな笑みを浮かべ、階段を降りようとした。
葛生は彼女を恐れて、本当のことを話すしかなかった。「あの一品堂のことは、軒袁がやったんです。お嬢様に言っても分からないと思いますが、お会いしたことはないはずです」
もし水野お嬢様がボスに聞きに行けば、ボスは彼女に嘘をつかないだろう。そうなれば自分は立場がなくなってしまう。