第582章 団地の入り口で見かけたあの男!

「いいえ」長谷川深は笑って、飴を抱き上げて彼女に渡した。

飴は元々とても賢い猫で、彼の目の表情が分かるかのように、もう彼にまとわりつくことはなく、おとなしく出雲絹代の腕の中に戻り、頭を彼女の胸に埋めて、恥ずかしそうにしていた。

出雲絹代は呆れた。この小さな子は、目の前の人を瑾智と間違えたのだろう。彼女は男性の足を見て、感慨深く思った。こんなに若いのに、足が不自由なんて、なんて残念なことだろう。

長谷川深は再び飴を見つめ、出雲絹代に頷いて、車椅子を転がして去っていった。

出雲絹代は飴のふわふわした頭を撫でた。小さな子は何かがあったのか、どうしても腕から離れようとしなかった。仕方なく、この可愛い子を抱き続けることにした。

かなり歩いてから、出雲絹代は振り返って見たが、通りは人で溢れており、あの人の姿はもう見えなかった。飴を見つめると、突然奇妙な感覚が心に湧き上がってきた。