上條千秋は息子を見つめた。「大丈夫かしら?」
彼女は、このような出会いと擦れ違いを何度経験したことだろう。一度また一度の希望と失望。それでも毎回、なりふり構わず確かめずにはいられなかった。
藤田清明は頷いた。母を失望させたくなかったが、断る勇気もなかった。毎回同じことの繰り返しで、一度も見つからなかった。自分のことはどうでもよかったが、ただ母が傷つくのが怖かった。
「藤田奥様、日幸さんとこのカフェでお待ちください。私と藤田坊ちゃんで探してきます」大豆田秋白は隣のカフェを指さした。
上條千秋は首を振り、彼を見つめた。「私も一緒に行くわ。日幸をここで待たせましょう」
水野日幸は遠慮した。「私も一緒に行きます」
こんなことが起きた以上、観光を続けるわけにはいかず、一行は人探しに向かった。
日本でなければ、藤田清明は即座に車や人を手配していただろう。母の見た幻かどうかに関わらず、確認せずにはいられなかった。
しかしここでは人脈もなく、兄に話すのも避けたかった。話せば、母と日本旅行に来て、あの子の家に泊まっていることがバレてしまうから。
大豆田家は三郷の富裕層地区に住んでいて、彼はこの辺りをよく知っていた。警備員から監視カメラの映像を簡単に入手し、シルバーグレーのベントレーを所有する家を特定して、一軒一軒訪ねて回った。
三郷に住む人々は皆、権力と財力を持っていた。どの家も十数台から二十台の高級車を所有していないと、三郷に住んでいるとは言えないほどで、ベントレーはほぼどの家にもあった。
幸い大豆田秋白がいたおかげで、それほど苦労せずに済んだ。どの家も彼の面子を立てて丁重に対応してくれた。しかし、探している人は見つからなかった。
「藤田奥様、まだ見落としがあるかもしれません。監視カメラをもう一度確認して、詳しく探してみましょう」大豆田秋白は全く諦める様子を見せなかった。
「もういいわ。ご苦労様でした」上條千秋の目には隠しきれない失望の色が浮かんでいた。やはり違った。また彼女の幻覚で大騒ぎをさせてしまった。彼にも、息子たちにも申し訳ない。
「構いません。引き続き注意を払っておきます」大豆田秋白は言い終わると、続けて「そろそろ夕食の時間ですね。近くに百年の老舗がありまして、本場の帝都の味が楽しめます。ご案内しましょうか」