第609章 あなたが恋しかった

出雲絹代は困り果てた様子で、事態がここまで明らかになった以上、言うべきことは言った。ずっと心に秘めておくわけにもいかない。「容姿は申し分ないわ」

「見た目がいいからって、それで食べていけるのか?うちの大切な娘が、一生障害者の面倒を見なければならないなんて、考えただけで胸が痛む。娘が可哀想で仕方がない」水野春智は言葉を詰まらせ、声が震えた。

「あなた、あなたの気持ちはわかるわ。でも焦らないで。娘にも何も言わないで。まだ若くて、初恋なのよ。あの子の頑固な性格はあなたもわかってるでしょう。急かしすぎたら、何か事故でも起こしかねないわ」出雲絹代はそれを心配していたからこそ、ずっと黙っていたのだ。

「そいつは誰だ?」水野春智は歯ぎしりしながら、台所へ包丁を取りに行った。「ぶっ殺してやる。うちの娘に手を出すなんて」

彼の娘に対して、将来の彼氏がイケメンだとか、お金持ちだとかは求めていない。せめて健康な人であってほしい。

車椅子に乗っているなんて、これからの人生、娘が毎日面倒を見なければならない。大切に育てた娘がそんな目に遭うなんて、見ていられない。

「今は冷静になって」出雲絹代は夫の性格をよく知っていた。「今から帰るわ。帰ってから詳しく話すから」

隣人だったら困る。こんなに近くにいたら、夫が包丁を持って乗り込んでいきかねない。

水野春智がまだ何か言おうとした時、妻は既に電話を切っていた。最後は怒りのあまり、包丁を持ったまま居間の入り口に座り込んでしまった。

出雲絹代は家で大変なことになりそうで心配で、江川歌見に一言告げて急いで帰った。

江川歌見はちらりと見て、先ほど恋愛とかいう言葉が聞こえた気がして、大体の状況は理解できた。水野日幸に伝えようかと思ったが、最後は我慢した。

彼女は秘密を守ることと、必要な時に力を貸すことは約束したが、情報を漏らすとは約束していない。二枚舌は使わない主義だ。

出雲絹代が車で家に着いた時には、太陽はもう沈みかけていた。水野日幸はまだ帰っておらず、水野春智は居間の入り口に座っていた。

「お帰り」水野春智は妻が帰ってくるのを見て、急いで立ち上がって迎えに行った。焦りと怒りを隠しきれない表情で「教えてくれ、そいつは誰なんだ?ぶっ殺してやる」