第634章 寺院での祈り

水野日幸は彼に寄り添い、背中に擦り寄せながら、目覚めたばかりの掠れた声で言った。「お兄さん、おはよう」

長谷川深は唇の端を微かに上げ、薄い唇を開いて「おはよう」と返した。

水野日幸はまだ完全に目覚めていなかった。彼を抱きしめたまま眠りそうになり、彼の背中に寄り添って、彼の匂いを嗅ぎながら、また目を閉じた。この幸せと静けさを感じながら、心が満たされていくのを感じていた。

この朝、水野日幸は撮影現場に行かず、ホテルの部屋で脚本を書いていた。

長谷川深は傍らで仕事をし、書類を見て、業務を処理していた。

最初のうち、二人はお互いを邪魔せず、真面目に仕事に取り組んでいた。

しかしすぐに、水野日幸は長谷川深の膝の上に寝転がり、スマートフォンで微博を見たり、様々な噂話フォーラムを見て回っていた。時々、川村染と曽我逸希の噂も目にした。前妻についての話題は、彼女の予想通りに少しずつ発酵していた。

しかし噂を見ていても心ここにあらずで、真面目に仕事をしている男性を見上げながら、思わず手で彼の顎を軽く突いて、甘い声で呼びかけた。「お兄さん」

長谷川深は眉を少し寄せ、少女を見つめながら、低く色気のある声で言った。「脚本を書くって言ったじゃないか?」

30分前、彼女は脚本を書くと固く誓い、誰にも邪魔されたくないと寝室に閉じこもり、彼に入ってこないよう厳しく警告したのだった。

結果はどうだったか。10分も経たないうちに、インスピレーションを探すと言って出てきて、彼の膝の上で飴のように活発に動き回り、しばらく遊んでは2分ほど書き、また出てくる。遊ぶ時間の方が脚本を書く時間より長かった。

「これは遊んでいるんじゃなくて、インスピレーションを探しているの」水野日幸は真面目な顔で彼を見つめた。「あなたは知らないでしょうけど、私たち脚本家にとって一番大切なのはインスピレーションなの。インスピレーションなしで書いた脚本なんて面白くないわ」

長谷川深は低く笑い声を漏らした。「じゃあ、外に出てインスピレーションを探しに行こうか?」

水野日幸は頷いたが、また躊躇いがちに首を振り、彼の腰に抱きついて、お腹の辺りを擦りながら、最後にぼそっと呟いた。「寒い」