第647章 誕生日おめでとう

水野日幸は鼻が酸っぱくなり、涙がこぼれそうになった。二人に向かって駆け寄り、抱きしめながら、少しかすれた声で「お父さん、お母さん、ありがとう」と言った。

お兄さんは、彼女の誕生日の後で、良い日を選んで挨拶に来ると言っていた。彼は絶対に嘘をつかないはずだった。

今、両親は全てを知っていて、彼と一緒に自分の誕生日を祝いに来てくれた。きっと全てがばれてしまったからだろう。

「お誕生日おめでとう」水野春智は笑顔で言い終わると、声が詰まり、彼女を押しのけて「トイレで手を洗ってくる」と言った。

そして、少し慌てた足取りで立ち去った。娘に泣いているところを見せるわけにはいかない。結局、彼女の成人式という喜ばしい日なのだから、台無しにするわけにはいかない。彼女が幸せなら、それでいいのだ。