第648章 人の心は貪欲なもの

「うん」石田文乃も力強くうなずいた。

村田思はすでに皆を呼んで歌を歌い始めていた。彼女が先導し、誕生日の歌が小さなリビングに響き渡り、幸せと喜び、温かさ、そして最も誠実な祝福に満ちていた。

皆が歌い終わると、水野日幸は皆でろうそくを吹き消すように促した。

この誕生日は、彼女にとって最も特別で、最も幸せで感動的な誕生日だった。彼女の友人、家族、恋人、彼女が大切に思うすべての人がここにいた。目を閉じ、ろうそくを吹き消し、静かに願い事をした。

長谷川深は少し横を向き、ろうそくの光の中で笑みを浮かべる少女の美しい顔を見つめた。ろうそくが消えた後も、彼女は幸せに満ちた明るい笑顔を浮かべていた。温かい感覚が体中に広がり、幸せが心の底から溢れ出ていた。

彼女に出会う前、彼が生きる唯一の動機は、彼女を見つけ、彼女が幸せに生きているのを見届け、自分の持っているものすべてを彼女に贈り、彼女の生活を邪魔しないことだった。

彼女に出会った後、彼は変わった。人の心は貪欲なもので、彼もますます貪欲になっていった。彼は彼女の喜怒哀楽を見たいと思い、彼女の生活のすべてを知りたいと思い、彼女の世界に溶け込みたいと思った。彼は彼女の笑顔が欲しく、彼女の心が欲しく、彼女のすべてが欲しかった。

彼女に出会う前、彼はただの死に瀕した人間で、自分の命がどこまで持つかわからず、もしかしたらある日生きる気力を失えば、そのまま死んでしまうかもしれなかった。

彼女に出会った後、彼は生きたいと思うようになった。必死に生きようとした。たとえ一日でも、一分でも、一秒でも、少しでも長く生きられるなら、それを掴み取りたいと思った。彼は立ち上がりたいと思い、彼女と肩を並べて立ちたいと思い、健常者として彼女の前に、彼女が大切にする人々の前に現れたいと思った。

今、すべてが実現した。彼は立ち上がり、まだまだ長く生きていける。必死に生きて、彼女と共に、老いるまで寄り添っていく。

耳元には少女の笑い声が聞こえ、銀の鈴のように澄んだ声が響く。彼女は密かに彼の手を握った。この温かく小さな両手こそが、彼を掴み、地獄から引き上げ、彼に温もりを与え、彼の人生を照らしたのだ。

「さあさあ、長谷川さん、誕生日ケーキをどうぞ」石田文乃は切り分けて皿に盛ったケーキを長谷川深に渡した。