第695章 飴パパは本当にいい男だ

向かい側。

水野日幸はすでにリビングに走り込んでいた。水野春智の前では抱きしめることはできないし、後ろから怨念のこもった視線を感じていたので、小さな魚肉ソーセージを一つ取り出して彼の口元に差し出した。「お兄ちゃん、ご飯食べた?」

長谷川深は自分の身につけているピンク色のクマのエプロンを指差して笑いながら言った。「叔父さんと一緒に料理を作っているところです。」

水野春智は娘が自分を無視するような態度に、心の中で酸っぱい思いをしながら、うんと答えた。「料理中だよ!いくつか料理を作って、あとは出前も頼もうと思うんだ。みんな食べた?」

「お菓子を食べたよ。」水野日幸は水野春智に笑顔を向け、興味深そうに長谷川深の胸元のクマに指を伸ばして触れた。エプロンは彼女が買ったもので、水野と出雲さんのために買った。ピンク色と青色の二つで、彼がピンク色を、水野が青色を着けていた。

石田文乃は長谷川深の身分とは全く不釣り合いなピンク色のエプロン姿を見て、よだれを飲み込みそうになった。飴パパのこの姿は、まさに理想的な家庭的な主夫だった。

一橋渓吾は優しく彼女の背中をたたき、心配そうな表情で「どうしたの?」と尋ねた。

石田文乃は神秘的な笑みを浮かべながら首を振り、彼の耳元で小声で言った。「飴パパって本当にいい男ね。」

こんな大物が、エプロンをつけて料理を作るなんて、想像もできなかった。少なくとも彼女の家では、おじいちゃんもあの役立たずの父親も、誰かのために台所に立つことなんて絶対になかった。

彼女の父親は、今の妻を愛していると口では言っているけれど、彼女のために料理を作るという話は聞いたことがない。

人というのは生まれつき卑しい性質を持っているもので、特に上流社会を自称する奥様方は、お金を使い果たすと、今度は愛情を比べ始める。誰かの夫が外出時に荷物を持ってあげただけで、半日中自慢するのだ。

一橋渓吾は笑って言った。「日幸が喜んでくれればそれでいいんだ。」

長谷川深の立場を考えると、彼らは家族として他に何も求めない。ただ日幸に一途であってくれれば、それが何より良かった。

リビングで、藤田清義と長谷川深は冷淡に挨拶を交わした後。

水野日幸は長谷川深の腕を引いて一緒にキッチンへ向かった。