彼はどうしてこれに気づかなかったのだろう。この話題なら、これからは妹と話す機会が増え、一緒に仕事をする可能性だってあるかもしれないのに。
水野日幸はこの話題については発言権があった。結局のところ、彼女は経験者であり、数多くのオーディション番組を見てきたし、自分自身も参加したことがある。彼らのコスモスエンタテインメントは、現段階ですでにこの事業の発展に力を入れていた。
以前は藤田清義のことが嫌いだったのは事実だが、今では、彼女が認めなくても、彼は兄であり、家族なのだから、何か考えがあれば当然彼に話すべきで、隠し立てするようなことではない。
「全部話してくれたの?源那津に怒られないの?」藤田清義は笑いながら尋ねた。
水野日幸は首を振り、思わず彼をじっと見つめてしまった。
彼女は藤田清義が笑うのをあまり見たことがなかったが、認めざるを得なかった。彼が笑うと、まるで時間のすべてが色あせて、彼の笑顔だけが残るようだった。特に今のような、計算も不純物も含まない純粋な笑顔は、あまりにも美しく魅力的だった。
「あなたたちコスモスエンタテインメントは、実は藤田家と協力する意向があるんでしょう!」藤田清義は彼女を見つめながら、口元の笑みを消さずに言った。
藤田家が提示した条件はとても好条件で、その条件を公開すれば、日本のどんなエンターテイメント会社も争って協力しようとするはずなのに、コスモスエンタテインメントだけは最初から最後まで、きっぱりと拒否し、一切の余地を残さなかった。
彼はその時、コスモスエンタテインメントの社長は、強気か頭が悪いかのどちらかだと思っていた。後になって、コスモスエンタテインメントの背後に彼女がいることを知り、本当の理由が分かった。彼女が協力したくなかったのだ、彼と関わりたくなかったのだ。
「あったわよ、ないわけないでしょ」水野日幸は正直に答えた。
当時、彼があんな態度でなければ、彼を知らなかったら、きっと藤田家と協力していただろう。あんなに良い条件なら、日本のエンターテイメント会社は、損をしてでも必死に藤田家という大木に縋りついただろう。