第30章 正式に撮影現場入り(2)

後の言葉は来栖季雄が言い終えなかったものの、鈴木和香にはそれが良い言葉ではないことが分かっていた。

実は、この数日間、鈴木和香はずっと理解できなかった。彼女と関係を持った後に何が欲しいのかと尋ねてきたのは来栖季雄なのに、いざ自分が二人の関係を取引として扱い、何かを要求すると、彼は途端に彼女を殺したいかのような態度を見せ、別荘から追い出してしまったのだ。

今、来栖季雄が電話を切る前に言った言葉を聞いて、やっと分かった。あの日彼があれほど怒ったのは、彼女が自分を買いかぶりすぎていると思ったからだ。

そうだ、彼女はもっと早く気付くべきだった、そうでしょう?

彼は最初から彼女と関係を持つつもりなど全くなかった。だから彼にとって、彼女の体が『傾城の恋』の女二号の役と引き換えになど、とてもならないのだ。