第65章 ここにサインをして(5)

あの時、彼女と来栖季雄は一年以上も会っていなかった。一年以上前の最後の出会いは、椎名佳樹の誕生日パーティーでのことだった。でも、その時の出会いで、彼は彼女の存在に全く気付かなかった。なぜなら、彼が現れた時、彼女はすでにこっそりと隅に隠れ、密かに彼を見つめていたからだ。

その時の彼女は、もう彼と一緒になれるという希望を完全に失っていた。

その時の彼女は、自分と彼はもう見知らぬ人同士になってしまい、二度と交わることはないと思い込んでいた。

しかし、時として運命は突然180度の大転換を見せることがある。その転換こそが、すでに他人同然となっていた彼女と来栖季雄を、強引に引き合わせることになった。

彼女が来栖季雄と一緒になれたのは、椎名佳樹のおかげだった。

椎名佳樹は、椎名家企業の唯一の後継者で、恋愛小説で言えば、望むものは何でも手に入る天才肌のエリートだった。