第64章 ここにサインをして(4)

鈴木和香は、先ほど彼女の心に様々な想像を掻き立てた契約書を見つめ、今は果てしない屈辱感だけが残っていた。

来栖季雄は鈴木和香が長い間動きを見せないのを見て、眉間に皺を寄せた。彼の醸し出す雰囲気は元々冷たかったが、この眉間の皺によって、さらに濃い寒気が彼から漂い出てきた。そのため、彼が口を開いた時の声も、まるで氷のように冷たかった。「どうした?この広告契約の報酬に不満があるのか?」

鈴木和香は来栖季雄の声を聞いて、ペンを握る指が少し震えた。そして何も言わずに、ゆっくりと紙面に自分の名前を書き入れた。

一度の過ちが千古の恨みとなる。もし鈴木和香が、初めて来栖季雄のベッドに上がった時に軽々しく口にした言い訳が、後になって彼女の終わりのない屈辱となることを知っていたら、きっとあの時、『世の末まで』の役を彼に頼むことはなかっただろう。

彼女は本当にこの契約を断りたかった。でも、この状況は自分で作り出したものだった。言い訳を探そうとしても、見つけることができなかった。

十三年前、彼女は彼を愛していた。若さゆえの恥ずかしさで、告白する勇気がなかった。

十三年後、彼女は彼を愛している。彼を愛していることを必死に隠そうとするほどに。

人生で最も遠い距離は、私があなたの前に立っているのに、あなたが私の愛に気付かないことではない。私があなたの前に立っているのに、私の愛をあなたに気付かれないよう必死に隠していることなのだ。

鈴木和香の目に霞がかかってきた。彼女は俯いて、必死に堪えた。涙を流すのを恐れていた。署名を終えると、ペン先は最後の一画で長く留まった。目の霞が晴れるまで待って、やっとペンを机の上に置き、契約書を来栖季雄に渡した。

鈴木和香の冷静さと平静さは、来栖季雄の心を落ち着かなくさせた。体の中で火が急速に燃え上がり、必死に出口を探しているような感覚だったが、どうしても見つけることができなかった。

突然、来栖季雄の視線がベッドの真ん中にある大きなクマのぬいぐるみに向けられ、顔が一気に冷たくなった。鈴木和香に向かって、やや強い口調で言った。「この化粧品には一つ条件がある。それは、彼らのブランドの広告塔を務める間は、他のどの化粧品ブランドの広告も受けてはいけないということだ。違反すれば刑事責任と巨額の賠償金が発生する。」