第56章 青春の季節、時は止まらず(4)

実は鈴木和香は奈良が大好きだった。単純にその街が美しいからだけど、どんなに美しい街でも来栖季雄がいる街には敵わない。和香はA大学も来栖季雄も自分には手の届かない夢だと分かっていたけれど、その夢に向かって頑張ることにした。

その日帰宅後、和香は人生の目標を定めた。A大学に入学し、来栖季雄と同じ大学の校友になること。

A大学は以前の一年生クラスよりもずっと難しかった。全国各地からA大学に合格する学生は、誰もが羨む優等生だった。でも人間の潜在能力は無限だ。というより、当時の和香は来栖季雄に惚れすぎていて、彼に近づけるなら、どんな代償も厭わなかった。

その時から大学入試までの間、和香の毎日は勉強と睡眠と食事、そして密かに来栖季雄を想うことだけ。その想いをエネルギーに変えて、さらに一生懸命勉強した。