第56章 青春の季節、時は止まらず(4)

実は鈴木和香は奈良が大好きだった。単純にその街が美しいからだけど、どんなに美しい街でも来栖季雄がいる街には敵わない。和香はA大学も来栖季雄も自分には手の届かない夢だと分かっていたけれど、その夢に向かって頑張ることにした。

その日帰宅後、和香は人生の目標を定めた。A大学に入学し、来栖季雄と同じ大学の校友になること。

A大学は以前の一年生クラスよりもずっと難しかった。全国各地からA大学に合格する学生は、誰もが羨む優等生だった。でも人間の潜在能力は無限だ。というより、当時の和香は来栖季雄に惚れすぎていて、彼に近づけるなら、どんな代償も厭わなかった。

その時から大学入試までの間、和香の毎日は勉強と睡眠と食事、そして密かに来栖季雄を想うことだけ。その想いをエネルギーに変えて、さらに一生懸命勉強した。

努力は報われ、和香の大学入試の成績は確かに素晴らしかった。椎名佳樹より一点だけ低い点数で、その成績ならA大学に楽々合格できるはずだった。

和香は学校に貼り出された成績表で自分の点数を確認した後、来栖季雄の成績を探した。椎名佳樹よりも十数点高かった。

その瞬間、和香はA大学の合格ラインを超えた成績表を見ながら、突然涙が溢れ出した。

彼女の夢が、ついに叶ったのだ。

夏の最も暑い時期に、和香は念願のA大学の合格通知書を受け取った。夏の終わりから秋の始めにかけて、和香は喜び勇んで合格通知書を持ってA大学に入学手続きに行った。椎名佳樹もA大学にいることを知っていたので、入学手続きを済ませた後、彼に電話をかけた。夜、二人で学食のドリンクバーでミルクティーを飲みながら、和香は何気なく尋ねた。「来栖季雄は?一緒じゃないの?」

椎名佳樹はストローを噛みながら、もごもごと答えた。「兄貴?A大学には来なかったよ。奈良に行ったんだ」

少し間を置いて、佳樹は続けた。「夏休みの時に、兄貴はスカウトされて大泉撮影所でエキストラをやることになったんだ。奈良は大泉撮影所に近いから、そっちの大学に行くことにしたって」

晴天の霹靂って知ってる?

何年経っても、和香は夢の中でその場面を見るたびに、当時の感覚を再び体験できる。まるで雷が頭上に直撃したかのような衝撃だった。