第70章 人々を驚かせる演技(2)

来栖季雄が急用で四日間遅れたため、撮影チームに戻るとすぐに、翌日には鈴木和香と来栖季雄の共演シーンが日程に組み込まれた。

撮影当日は、前回鈴木和香と来栖季雄が撮影予定だった日と同様に、天気が特に良く、キャスト全員が早くから撮影現場の外に集まっていた。

鈴木和香がメイクを終え、衣装を着替えて出てきた時、来栖季雄はすでに撮影現場で待機していた。いつものように、彼の周囲2メートル以内には誰も近づかなかったが、多くの女優たちが彼の座っている方向を何度も見ていた。

撮影監督は鈴木和香が来るのを見るとすぐに、自ら来栖季雄に知らせに行き、全員が持ち場につき、撮影開始を待った。

脚本では、女二号と男二号は幼なじみの親友で、男二号の心の中で女二号は妹のような存在だった。しかし、女二号は密かに男二号に恋心を抱いていた。ある日、男二号が愛する女性と結婚しようとした時、女二号はついに耐えきれなくなり、男二号を陥れる計画を立て、男二号と彼の愛する女性を無理やり引き離してしまう。

今日の最初のシーンは、男二号の恋人が海外に去り、男二号が酔っ払い、女二号が男二号を慰める場面だった。

監督の「スタート」の声とともに、すべてのカメラが来栖季雄に向けられた。

豪華な内装の部屋で、来栖季雄は疲れ果てた様子で床に座っていた。彼の服はしわくちゃになり、周りには空の酒瓶が散乱していた。手にも酒瓶を持ち、生きる気力を失ったような表情で酒を飲み続けていた。

来栖季雄の演技は、いつも申し分なかった。現実での彼がどれほど冷淡で近寄りがたい性格であろうと、役に入った瞬間、まるで別人のように変わり、すべての冷たさと距離感を脱ぎ捨て、全身から悲しみと苦痛だけを放っていた。愛する人を失った言葉では表現できない痛みを強調するため、激しく酒を飲んで むせる演技をし、突然身を屈めて激しく咳き込み始めた。その咳とともに、一滴の涙がゆっくりと床に落ちた。

「さすが来栖スター、何気ない演技一つでも、脚本のキャラクターを完璧に表現している」

「すごい、あの酒でむせて涙を流すシーン、一瞬でこのドラマを生き生きとさせた」

来栖季雄の演技に、周りから賞賛の声が上がった。