第105章 愛してはいけない深い愛(11)

だいたいあの頃から、彼はお金を稼ごうと必死になったのだろう。

先ほどラジオで男性アナウンサーが言っていたように、愛はお金では測れないが、お金がないと愛することもできない。自分をより良くするのは、ただ彼女をより良く愛するためだった。

しかも彼が愛した彼女は、普通の家庭の女の子ではなく、名門の家柄のお嬢様だった。

正直に言えば、彼は口べたで、クラスメートと遊びに行くのも好きではなかったが、椎名佳樹が毎回彼女を誘うので、彼は気が進まなくても一緒に行った。

実際、行ってみると良いことがあった。彼女が奈良で大学に行きたがっていることを知ったのだ。

奈良は広く、大学もたくさんある。彼女はどの大学とは言わなかったが、同じ大学でなくても同じ街にいられればいい。そう思って、大学入試の結果が出た後、彼は迷わず三つの志望校すべてを奈良の大学にした。

実際には、最悪な状況はさらに悪化することもある。奈良に行くと言っていた彼女は、結局東京に残ることになった。

それ以来、彼と彼女は遠く離れ離れになった。

実は彼は彼女のために奈良に行ったのだが、椎名佳樹に東京に残らずなぜ奈良に行くのかと聞かれた時、彼はスカウトされて大泉撮影所で映画を撮ることになったという言い訳しかできなかった。

その頃、彼の気分は最悪だった。彼女が椎名佳樹と鈴木夏美と一緒に奈良に遊びに来て、彼女に再会するまでは。彼女に会えた時、彼の気持ちはやっと少し晴れた。そしてその時、彼は彼女の贅沢な生活ぶりを目の当たりにした。使うものも着るものも、どれも高価なものばかり。当時、彼と彼女はまだ何の関係もなかったが、彼はすでに大きなプレッシャーを感じていた。

ほら、彼女はよく奈良に遊びに来るようになり、来るたびに彼は彼女を食事に誘った。

彼女は知らなかった。あの頃、裕福ではない一人の少年が、財布の中身をすべて使って彼女の支払いをしていたことを。

彼女は知らなかった。時には、一回の食事で彼のアルバイト一ヶ月分の給料が消えていたことを。

大学四年生になって、彼の芸能活動がやっと少し軌道に乗り始めた頃、撮影中に彼女からメールが来た。財布をなくして一人で奈良東駅にいるという。大泉撮影所は大雨だったが、彼は衣装も着替えずにタクシーを拾って駆けつけた。

その夜は、彼と彼女が人生で初めて同じ部屋で過ごした夜だった。