第112章 言えない秘密(6)

「うん」と鈴木和香は返事をして、さらに説明を加えた。「午後に身分証明書の再発行に行っていたから、電話するのを忘れてしまったの」

「うん」来栖季雄は彼女の真似をして、同じように「うん」と返事をした。しばらくして、電話の向こうで彼は言った。「もう遅いから、早く寝なさい。女の子は夜更かしはよくないよ」

今思えばごく普通の言葉だったけれど、当時の彼女には、その言葉の中に少しだけ彼の思いやりが感じられた。電話を切った後、来栖季雄は自分のことが好きなんだと、さらに確信を深めた。そして一晩中考えた末に、一つの方法を思いついた。それは来栖季雄に恋文を書くことだった。

当時の彼女の計画は完璧だった。恋文を書き終えて、次に奈良に行った時、来栖季雄と食事をしている時に、彼がトイレに立った隙を見計らって、その恋文を彼のコートのポケットにこっそり忍ばせた。