鈴木夏美は車の中に座り、バックミラーを通して、来栖季雄の遠ざかっていく姿を見つめながら、ついに目が赤くなってしまった。
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エレベーターが最上階に到着し、ドアが開くと、来栖季雄が中から出てきた。
秘書が数枚の書類を抱えながら、彼の部屋の前で待っていた。彼が近づいてくるのを見ると、すぐに丁重に迎え出て、「来栖社長、お昼頃、会社の副社長が書類を届けさせました。緊急の書類だそうで、ご確認の上、問題なければ早急にご署名いただき、会社へ返送するようにとのことです。」と言った。
来栖季雄は軽く頷き、カードキーを取り出してドアを開け、スーツの上着を脱いで秘書に渡し、彼から書類を受け取ると、ソファに座って審査を始めた。
書類は七、八枚あり、来栖季雄がすべてに目を通して署名を済ませると、窓の外はすでに暗くなっていた。
来栖季雄は書類を秘書に渡し、会社へ返送するよう指示した。
秘書は今が8時で、来栖季雄がまだ夕食を取っていないことに気づき、「来栖社長、ホテルに夜食を注文しましょうか?」と尋ねた。
おそらく午後ずっと書類を審査していたせいで、来栖季雄の眉間には疲れの色が浮かんでいた。彼は秘書に手を振って、必要ないと示した。
秘書は空気を読んで書類を抱え、小声で「では来栖社長、他にご用件がなければ、私は失礼いたします」と言った。
来栖季雄は手を上げて眉間をさすりながら、軽く頷いた。
秘書が振り向こうとした時、来栖季雄は突然目を開け、「鈴木君の部屋に寄って、こちらに来るように伝えてくれ」と言った。
「かしこまりました」秘書は小声で答え、静かにドアを開けて部屋を出た。
広大なスイートルームには、一瞬にして来栖季雄一人だけが残された。彼はソファに寄りかかり、床から天井までの窓の外に広がる星空を見つめながら、知らず知らずのうちに、鈴木夏美が中華料理店で鈴木和香に言った言葉を思い出していた。
鈴木夏美が若かった頃、彼への想いが実らなかった後、鈴木和香と椎名佳樹のせいで彼は夏美と向き合わざるを得なかったが、できるだけ二人の間に余計な接点が生まれないようにしていた。
四年余り前まで、そのとき、彼はすでに七ヶ月近く鈴木和香に会っていなかったし、彼女についての情報も一切耳にしていなかった。