松本雫は一瞬間を置いて、はっきりとした口調で尋ねた。「あなたは本当に鈴木和香のことを愛しているの?」
そう言った後、松本雫は首を振った。「あ、違う。こう聞くべきだったわ。あなたはどれほど鈴木和香のことを愛しているの?」
どれほど和香を愛しているのか...来栖季雄の表情が一瞬静かになった。フロントガラス越しに外の生い茂った古木を見つめながら、彼の目元が僅かに揺らぎ、深い声で答えた。「とても愛している。時には、過去の自分が羨ましくなるほどに。貧しくて惨めだった来栖季雄、彼女に相応しくないと分かっていながら、財布の中身を全て使って彼女の支払いをしていた来栖季雄が」
この質問は松本雫が投げかけたものだった。ただ単に彼がどれほど和香を愛しているのか知りたかっただけなのに、来栖季雄の答えを聞いて、突然何と言葉を返せばいいのか分からなくなった。
車内は一瞬静寂に包まれた。しばらくして、松本雫は手の中のミネラルウォーターのボトルを握りしめ、物思いに耽っているような来栖季雄の横顔を見つめながら言った。「実は、あなたが私に助けを求めたのは、自分で解決できないからじゃない。このドラマの現場に、和香を陥れようとしている人がいることを知っているから。その人の行動が裏目に出て、和香を潰すどころか、逆に和香の助けになるようにしたいだけなんでしょう?」
「それも一つの理由だね...」来栖季雄は一瞬置いて、続けた。「もう一つの理由は、本当に彼女が大勢の人に非難されるのを見ていられないんだ」
公人である以上、誰しも非難されることはある。
どれだけの称賛に耐えられるかは、それだけの誹謗中傷にも耐えなければならない。
時として、理屈は理屈で、他人や自分に起きた時は、そう自分を諭したり人を諭したりできる。でも愛する人に起きた時、その罵詈雑言は全く耐えられないものになる。自分が罵られるよりも千倍も万倍も辛い。
多くの場合、物事には両面性があるものだ。和香が枕営業で這い上がったという認識も、自分は持てても、他人にそう思われることは許せない。