第177章 来栖スターが怒った(9)

来栖季雄は病院の廊下の窓際に立ち、窓の外の真っ暗な夜空を見つめていた。しばらくして、鈴木和香の額の傷を思い出した。大したことはなかったが、顔についた傷だった。そこで携帯を取り出し、自分の秘書に電話をかけた。

秘書は市内にいて、来栖季雄からの電話を受けると、30分もしないうちに駆けつけてきた。小さな薬瓶を手に持って来栖季雄に渡しながら言った。「来栖社長、この薬はもうほとんど残っていません。これが最後の一本です。君に差し上げたら、社長がケガをした時に使えなくなってしまいます。」

その薬は、来栖季雄が数年前に四国でドラマを撮影していた時、偶然出会った漢方医から買った傷跡消しの伝統的な軟膏だった。当時は時代劇をよく撮影していて、アクションシーンでケガをすることも多かったが、この薬を塗れば、どんな傷でも跡が残らなかった。