来栖季雄の口から出た言葉は容赦なく、言い終わると鈴木和香を見向きもせずに、傍らに立っていた千代田おばさんに軟膏を投げ渡した。
千代田おばさんは慌てて手を伸ばしてそれを受け取り、笑顔で言った。「夕食の準備ができています。まだ温かいうちに、早く召し上がりましょう。」
そう言ってから、千代田おばさんは来栖季雄がまだ車の中にいることに気づき、「来栖社長、今夜はお家にいらっしゃいますか?」と尋ねた。
「いない」来栖季雄は冷たく二言を投げ、ハンドルを切って車を転回させ、アクセルを思い切り踏み込むと、車は桜花苑の中庭から猛スピードで走り去った。
鈴木和香は来栖季雄の車が見えなくなるのを見つめながら、まぶたを少し伏せて目の中の失望を隠し、何事もなかったかのように千代田おばさんに向かって軽く微笑んだ。「中に入りましょう。」
食事を済ませ、鈴木和香が階段を上がろうとしたとき、千代田おばさんは来栖季雄が渡した軟膏を差し出した。「奥様、社長からの軟膏です。」
鈴木和香は千代田おばさんの手の中の小さな薬瓶を見つめ、少し間を置いてから手を伸ばして受け取り、階段を上がった。
一日中疲れていた鈴木和香は、シャワーを浴びてからベッドに潜り込んだ。消灯する前に、ベッドサイドテーブルに置いた小さな薬瓶を見つめ、それを手の中に握りしめたまま、電気を消して柔らかな布団に横たわった。目を閉じたが、なかなか眠れなかった。
来栖季雄はなぜ私を助けてくれたの?あの時の表情は、私を心配していたの?
でも、ほら、彼は相変わらず冷たい態度で、言葉も優しくなかった。
鈴木和香は思わず寝返りを打ち、薄暗い常夜灯の下で手の中に握りしめている薬瓶を見つめた。彼が薬瓶をくれたのは、本当に私の顔に傷跡が残ることを心配してなの?それとも単に傷跡を残したくないだけ?
鈴木和香は考えれば考えるほど、心が乱れていった。
五年以上前、奈良で彼と初めて二人きりになった後も、こんな風に考え込んでいた。彼が私に気があるのかもしれないと思っていたけど、結局それは私の一方的な思い込みだったことが分かった。
それに、五年前、彼は私に言った。誰を好きになるにしても、それが私であることは絶対にないと。
だから今、ここで空想を膨らませても意味がない。結局、失望するのも傷つくのも自分だけなのだから。