第172章 来栖スターが怒った(4)

林夏音はつま先立ちになり、ブランコの上の方にある麻縄を引っ張り、その周りに絡まっている花を少し上げて、小石を手に取り、その縄を擦り始めた。

最後に細い縄が一本だけ残った時、林夏音はようやく手を止め、花で傷つけた縄を隠し、周りを見回して誰にも気付かれていないことを確認すると、足早に立ち去った。

しばらく歩いてから、林夏音は手にまだ小石を握っていることに気付き、慌てて近くの湖に投げ捨てた。

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鈴木和香のシーンの撮影時には、すでに夕暮れ時で、ちょうど夕日が沈みかけ、山荘全体が赤く染まっていた。

このシーンは鈴木和香一人の出演で、内容としては、劇中の女二号が男二号に愛される可能性がないことを悟り、諦めようとする場面。男二号が彼女のために作ったブランコに一人で座り、二人の思い出を振り返る。

このシーンにはセリフがなく、報われない恋の苦しみを表情と目線だけで表現すればよかったので、鈴木和香にとってはそれほど難しくなかった。

監督はモニターで場面を確認し、問題がないと判断すると、鈴木和香にスタートの合図を送った。

鈴木和香はブランコの前に歩み寄り、夢中になったような表情でブランコをゆっくりと撫で、そして腰を下ろした。

監督から事前に指示された通り、鈴木和香はブランコに座ったまま、静かにぼんやりとし、ブランコを静止させたまま、しばらくしてから足で地面を蹴って、軽くブランコを揺らした。

「はい、綺麗です。このシーンはOKです!」

次のシーンは、鈴木和香がブランコを大きく揺らし、目を閉じて風を感じながら微笑むシーンだった。

鈴木和香一人では大きく揺らすのが難しいため、監督は特にスタッフの一人に、鈴木和香の後ろから押すように指示した。

一回目はスタッフが押す力が弱すぎて、ブランコが十分な高さまで上がらず、やり直しとなった。二回目は高さは十分だったが、スタッフがカメラに映り込んでしまい、三回目となった。

監督の三度目の指示で、鈴木和香は再びブランコを漕ぎ始め、後ろに戻った時にスタッフが強く押して、すぐに画面外に逃げた。

鈴木和香は急いで目を閉じ、シーンに必要な表情を作った。

ブランコが上がるにつれて、鈴木和香の唇に微笑みが浮かんだ。

監督はモニターを見ながら満足げに頷き、良い出来栄えだと褒めた。