第198章 なぜ私じゃないの?(8)

「本当にありがとうございます、監督」来栖季雄のアシスタントは丁寧に監督にお礼を言い、二人に別れを告げると、携帯を手に取り、来栖季雄に電話をかけながら立ち去った。

監督は申し訳なさそうに和香に言った。「和香ちゃん、今日もメイクだけで終わってしまって申し訳ない」

「大丈夫です」鈴木和香は少し離れたところにいるアシスタントを見て、監督に言った。「では監督、お忙しいところ失礼します。メイクを落として、ホテルに戻ります」

「ああ」

「失礼します」鈴木和香は監督に微笑みかけ、振り返って来栖季雄のアシスタントを追いかけ、その前に立ちはだかった。

「君?」来栖季雄のアシスタントは足を止め、まだ繋がらない携帯を下ろし、丁寧に尋ねた。「何かご用でしょうか?」

「来栖季雄さん、怪我をされているんですよね?」鈴木和香は率直に尋ねた。