女性は生まれつき敏感なのかもしれないが、鈴木夏美は来栖季雄がザリガニを注文した理由に何か別の意味があるように感じていた。
彼女は何気なく顔を上げ、向かい側に座っている鈴木和香と来栖季雄を見やった。鈴木和香は頭を下げたまま、一心不乱にザリガニを食べていた。まるで以前、夜に吉祥寺でザリガニを食べに連れて行かれた時と同じような食いしん坊ぶりだった。来栖季雄は彼女の隣に座り、いつものように殆ど口を開かず、手袋をはめたままザリガニの殻を剥き続けていた。しかし自分では食べず、剥いた身は全てザリガニのスープに浸していた。
鈴木夏美は何度も何気なく来栖季雄と鈴木和香を観察したが、二人の間には特に何もないように見えた。彼女の心の中で、また躊躇いが湧き上がってきた。もしかしたら、自分が考えすぎているのかもしれない。