第239章 彼女だけは触れてはいけない!(9)

助手はすでに床から立ち上がり、ドアの前で自分の手を見つめて呆然としている鈴木夏美を引っ張り、エレベーター前に立っている来栖季雄の方へ走っていった。

助手と鈴木夏美がエレベーター前に着いた時、ちょうどドアが開き、来栖季雄は二人を全く無視して、鈴木和香を抱きかかえたまま中に入った。

助手は魂が抜けたような鈴木夏美を先に押し込み、その後に自分も乗り込んで、階数ボタンを押した。

エレベーターが一階に到着すると、来栖季雄は鈴木和香を抱きかかえたまま真っ先に出て行き、助手は急いで小走りで追いつき、後部座席のドアを開けた。

助手は来栖季雄が鈴木和香を抱いて座るのを待ち、ドアを閉め、それから助手席のドアを開けて鈴木夏美を促し、彼女が座るのを待ってから急いで運転席に乗り込み、車を発進させ、最寄りの市立総合病院へと向かった。

助手は車を高速で走らせ、車内は静まり返っていた。誰も話さず、鈴木夏美は頭の中が混乱し、しばらく前方の道路を呆然と見つめていたが、やがてゆっくりと目を動かしてバックミラーを見た。そこには、来栖季雄が相変わらず守るような姿勢で鈴木和香を抱きしめている姿が映っていた。少女の頭は彼の胸にぐったりと寄りかかり、顔は赤く上気していた。来栖季雄は彼女の頭がそのような状態で不快なのではないかと心配し、手を伸ばして姿勢を直してやり、ついでに乱れた長い髪を一本一本丁寧に撫でつけた。鈴木夏美ははっきりと見た。来栖季雄の動作は非常に優しく、先ほど我孫子プロデューサーに対して見せた狂気じみた暴力的な態度は微塵もなく、むしろ普段の冷たく無関心な彼からは想像もできないような優しさが感じられた。

鈴木夏美は喉に何かが詰まったような感覚を覚え、とても苦しく、目の奥が痛くなった。視線を逸らそうとしたが、どうしても目を離すことができなかった。

車が市立総合病院の救急入り口に到着すると、来栖季雄は助手と鈴木夏美に一言も残さず、ドアを開けて鈴木和香を抱きかかえたまま素早く降り、救急室へと入っていった。

助手と鈴木夏美が車を停めて後を追いかけた時には、来栖季雄はすでに看護師の案内で鈴木和香を抱きかかえたままエレベーターに乗り、二階へ向かっていた。二人は急いで後を追った。