第240章 彼女だけは触れてはいけない!(10)

病室は静かで、物音一つしない中、鈴木夏美は両手を強く握りしめて脇に座り、時折、鈴木和香を抱きしめている来栖季雄の様子を窺っていた。男の視線は和香から離れることなく、周りの光景や人々を一瞥もしなかった。

というより、この瞬間、彼の目には和香しか映っておらず、他の何もかもが目に入らないようだった。

夜が次第に更けていき、鈴木夏美は少し固くなった体を動かし、水を二杯注いで、その一杯を来栖季雄の前に置いた。男は瞼を上げることすらせず、夏美は唇を噛みしめ、コップを強く握りしめた。この瞬間、自分がこの病室で余計な存在に思えた。

夏美は来栖季雄の前に暫く立っていたが、やがてコップを持って向きを変え、病室を出た。廊下の窓の前に立ち、深まりゆく夜の闇を見つめながら、茫然とした表情を浮かべていた。