来栖季雄がこの数年間、ずっと忘れられない深い想いを寄せていたのは、鈴木和香だった。
病院から帰る道中、彼女は眠っているように見えたが、頭の中では考えていた。来栖季雄は鈴木和香とそれほど親しくなかったのに、一体どうやって彼女のことを好きになったのだろうか?
時には、そういう方向で考えていなければ、何も問題に気付かないものだ。でも、何かに気付いてから振り返ってみると、初めて問題の所在が分かるものだ。
高校時代、季雄は全ての集まりに参加していたわけではなかったが、和香が出席する集まりには必ず顔を出していた。
ただ、二人はほとんど話すことがなく、時には遠く離れた席に座っていて、何かを連想させることは本当に難しかった。
鈴木夏美は高校三年生の時のことをはっきりと覚えていた。椎名佳樹が野外活動を企画し、夜は山腹でテントを張って寝ることになった。テントの中は蒸し暑く、結局みんな外で寝ることになった。夜中にトイレに起きた時、季雄が和香の傍らに座っているのを見つけた。その時は眠くて深く考えなかったが、トイレから戻ってぼんやりと目を開けた時、季雄が和香の体の上で手を振り続けているのを見た。
残念ながら、翌朝みんなが目を覚ました時には、季雄の姿はもうなく、彼女もその出来事を気に留めていなかった。
今になって考えてみると、やっと分かった。いつも蚊に刺されやすかった和香が、あの夜はとても安らかに眠れて、翌朝の肌はすべすべで、蚊に刺された跡が一つもなかった理由を。
あの夜、季雄は皆が寝ている間、和香のために一晩中蚊を追い払っていたのだ。
ほら、大学に入ってからは、みんなバラバラになり、彼女と和香はよく一緒に奈良に遊びに行っていた。季雄はいつも二人を食事に誘ってくれた。彼女が一人で奈良に行った時に季雄に食事の誘いを何度かしたことがあったが、季雄はいつも様々な理由をつけて断っていた。当時の彼女は本当に撮影で忙しいのだと思っていたが、今になってやっと分かった。忙しかったわけではなく、彼の時間は和香という女性のためだけにあったのだ。