「どうしようもないさ。」来栖季雄は極めて自然に、軽やかな口調で、まるで自分の誕生日など全く気にしていないかのように言った。
鈴木和香は眉間にしわを寄せ、ドアの隙間から中を覗き込んだ。ちょうど書斎の机に座っている来栖季雄の姿が目に入った。彼は頭を下げ、ゆっくりと丁寧に書類に目を通していた。途中で何かを思い出したかのように顔を上げ、目の前の虚空を見つめ、少し恍惚とした表情を浮かべた後、端正な顔に自嘲的な笑みを浮かべ、再び頭を下げて書類を見ながら、感情のない淡々とした声で言った。「それに、私の誕生日なんて、祝う必要もない。」
確かに祝う必要などなかった。母が亡くなってから、この世界で彼の誕生日を知る人は数えるほどしかいない。父親、父の妻、そして祖父...。しかし彼の誕生日の日、皆は椎名佳樹の誕生日を祝うことに夢中で、どうして彼のことを覚えているはずがあろうか。だから、本当に祝う必要などない...。そもそも、一緒に祝ってくれる人もいないのだから...。
アシスタントはもう何も言わなかった。
書斎は静まり返っていた。
来栖季雄は優雅な姿勢で机に座り、書類を読み続けていた。鈴木和香の視点からは、来栖季雄はいつもの冷淡で高慢な彼と変わらなかった。先ほどの話し方も、いつもの情感のない調子そのものだった。しかし、なぜか鈴木和香は、彼の佇まいから、どこか寂寥感と孤独を感じ取っていた。
彼女は鮮明に覚えていた。以前、椎名佳樹の誕生日には、よく皆を誘って遊びに行き、いつも賑やかで祝福に満ちていた。来栖季雄もそこにいて、毎回必ず椎名佳樹に誕生日プレゼントを贈っていた。彼はいつも落ち着いた様子を見せていたが、誰が想像しただろうか。その日が実は彼の誕生日でもあり、同じ誕生日の弟がたくさんのプレゼントと祝福を受け取るのを、ただ傍観していただけだったことを。同じ誕生日の彼には、基本的な「お誕生日おめでとう」の言葉さえかけられたことがなかったのに。
鈴木和香の心に、鋭い痛みが走った。彼女は壁に寄りかかったまま、長い間そこに立っていた。千代田おばさんが食堂から出てくるまで、鈴木和香はようやく我に返り、書斎のドアをノックした。
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午後、環映メディア株式会社で何か用事があったらしく、来栖季雄は食事を済ませると、アシスタントと共に出かけた。