第270章 あなたへの誕生日プレゼント（10）

来栖季雄の車の窓は下がっていた。鈴木和香は車の横まで走り寄り、黒くて大きな瞳を見開いて来栖季雄を見つめ、笑顔で尋ねた。「お帰りなさい？」

来栖季雄は何も答えず、ただ淡々と鈴木和香を一瞥しただけで、正面のフロントガラスに目を向けた。彼の端正な顔立ちは不気味なほど平静で、人を寄せ付けない冷たい雰囲気を全身から漂わせていた。

鈴木和香は男の機嫌が良くないことを感じ取り、瞬きをしながら、顔の笑みを少し収めて、慎重な口調で話しかけた。「どうかしたの？」

来栖季雄は再び鈴木和香の声を聞くと、少し首を傾け、バックミラーを通して鈴木和香を一瞥し、ハンドルに指に少し力を入れてから、急にキーを抜いて、ドアを開けて車から降りた。

来栖季雄は車の横に立っている鈴木和香を一目も見ずに、大股で家の中へと向かった。

鈴木和香は急いで小走りで追いかけ、家の中に入った時には、来栖季雄はすでに靴を履き替え、スーツの上着を脱ごうとしていた。

鈴木和香は足を緩め、来栖季雄の後ろ半メートルの距離で小声で尋ねた。「夕食は済んでる？何か食べる？」

来栖季雄は何も言わず、脱いだ服をソファーに適当に投げ捨てると、階段へと向かった。

鈴木和香はソファーから自分の携帯を取り、急いで追いかけ、寝室のドアの前で再び声をかけた。「お風呂の準備をしましょうか？一日お疲れだったでしょう、温かいお風呂に入ると気持ちいいと思うけど。」

来栖季雄はまだ反応を示さず、寝室のドアの前で立ち止まることすらなく、そのまま通り過ぎた。

鈴木和香は不思議そうに頬を膨らませ、来栖季雄を追いかけた。「こんな遅くに、休まないの？」

来栖季雄は書斎のドアを開け、まるで鈴木和香が存在しないかのように部屋に入り、鈴木和香が反応する間もなく、「バン」という音を立てて、力強く鈴木和香の目の前でドアを閉めた。

鈴木和香は目の前の閉じられたドアを見つめ、口を開けかけ、無意識にドアノブを回してみたが、内側から鍵がかけられていることに気付いた。

鈴木和香は眉間にしわを寄せ、一体何があったのか理解できず、来栖季雄の機嫌がこれほどまでに悪いとは。