ステージを降りた和香は季雄の腕を組み、来賓一人一人に酒を注いで回った。用心のため、以前の宴会と同様に、静かに宴会場の片隅に退き、来賓の接待は絹代と一聡に任せた。
片隅は人通りが少なかったものの、時折通る人もいたため、和香と季雄は会話を控えめにし、何か間違いが起きないよう気をつけていた。
先ほどの乾杯の際、季雄は和香の分まで何杯も飲んでいた。椎名家の来賓は多く、急いで飲んだ上に夜は何も食べていなかったため、季雄は胃の調子が悪くなり、ソファに座るとすぐに目を閉じた。
宴会場は賑やかで、笑い声や会話が絶え間なく聞こえてきた。
和香はしばらく耳を傾けていたが、宴会が始まる前、一聡と絹代に無視された季雄が黙って外に出て、車の傍でタバコを吸っていた光景を思い出し、胸が痛んだ。思わず振り向くと、季雄が目を閉じて休んでいるのが見えた。
男の顔には傷跡が貼られ、意図的に椎名佳樹の姿に変えられていたが、和香はその偽装された顔を通して、季雄本来の端正で美しい容貌を垣間見ることができた。
和香の表情は柔らかくなり、思わず季雄を見つめ続けた。
見つめているうちに、彼女の脳裏では、男の流麗な輪郭線に沿って、記憶を頼りに彼の本来の容姿を描き始めていた。
ついには、和香は完全に我を忘れて見入り、表情も優しく情感豊かになっていった。
季雄は胃の具合が少し良くなってきた頃、思わず目を開けた。すると和香が首を傾げ、自分を見つめ続けており、その表情には陶酔と深い愛情が浮かんでいた。
季雄の心臓が一拍飛び、思わず彼女の目と目が合った。しかし、彼女の美しく澄んだ瞳に映っているのは、椎名佳樹の顔だった。
季雄は眉間を少し動かし、およそ5秒ほど呆然としていたが、突然自分が今椎名佳樹の顔をしていることを思い出した。
なるほど、だから彼女はこんなにも見入っていたのか、だから彼女の顔に愛情が浮かんでいたのか...彼女は自分を椎名佳樹だと思っていたのだ。
そうだ、どうして忘れていたのだろう。彼女は自分に向かう時、目を伏せるか視線を逸らすかのどちらかで、こんなにじっと見つめることなど一度もなかったではないか。
季雄は心の底を何かで深く切り裂かれたような痛みを感じ、全身に広がっていった。彼の瞳に暗い影が差し、和香の美しくも傷つける目から視線を逸らした。