七時四十分頃になると、招待客が次々と到着し始めた。
来栖季雄はどこかへ行ってしまい、赤嶺絹代、椎名一聡、鈴木和香の三人が笑顔で玄関に立ち、客人を出迎えていた。
その間、赤嶺絹代は執事を呼び、耳元で二言三言囁き、来栖季雄を探しに行くよう指示した。
七時五十分近くになっても、来栖季雄はまだ現れず、赤嶺絹代の目元に不快の色が浮かんだが、それでも落ち着いた様子で椎名グループの株主二人を笑顔で宴会場へと案内し、そっと立ち去った。別荘の玄関に着いた時、執事がドアを開けて入ってきた。赤嶺絹代は即座に冷たい声で尋ねた。「彼はどこ?」
執事が口を開く前に、来栖季雄が後に続いて屋内に入ってきた。
赤嶺絹代は執事に目配せをし、執事はすぐに察して宴会場へと客人の接待に向かった。
赤嶺絹代はハイヒールを履いた足取りで、優雅に来栖季雄の前まで歩み寄った。声を発する前に、二人の来客が入ってきたため、赤嶺絹代は即座に満面の笑みを浮かべ、来栖季雄の腕に手を回し、その来客に向かって笑顔で挨拶した。「馬場社長、奥様」
その後、穏やかな表情で来栖季雄を見つめながら促した。「佳樹、早く馬場社長と奥様にご挨拶なさい」
来栖季雄は普段の冷淡さと距離感を隠し、椎名佳樹らしく振る舞うため、赤嶺絹代の言葉に従い、穏やかな口調で挨拶した。「馬場おじさん、馬場おばさん、ようこそいらっしゃいました」
言い終わると、来栖季雄は宴会場の方向へ案内するジェスチャーをした。
馬場夫婦が先に宴会場へ向かって歩き出すと、赤嶺絹代は来栖季雄の腕を取って後に続いたが、前を行く馬場夫婦との間に適度な距離を保っていた。
赤嶺絹代は誰も気付かないタイミングを見計らって、少し顔を寄せ、極めて冷たい口調で来栖季雄に向かって声を潜めて言った。「今夜は佳樹の誕生パーティーよ。気を付けなさい。何か問題を起こさないように」
赤嶺絹代がそこまで言った時、ちょうど一人の来客と正面で出くわした。彼女は即座に言葉を止め、すぐさま輝かしい笑顔でその来客に挨拶を交わした。来客が通り過ぎると、再び来栖季雄に向かって、警告するかのように冷たく言った。「最初から誰もあなたに無理強いしたわけじゃない。あなたが自分から引き受けたのよ。それに、忘れないで。あなたの命は私たちの佳樹が救ったのよ!」