鈴木家の人が掃除をしたのだろう。ゴミ箱には様々な贈り物の箱や空き瓶、果物の皮が山積みになっていた。その中で、彼の視線は一点に鋭く注がれた。花束と未開封の白鳥ケーキ屋のケーキの包装が捨てられていたのだ。透明な包装越しに中のケーキが見え、それは投げ捨てられて形が崩れていた。朝に彼が受け取った時はまだ艶やかだった花々は、花びらを散らし、一部は踏みつぶされていた。金箔の施されたカードは二つに引き裂かれ、無造作に惨めな花の上に投げ捨てられていた。
その瞬間、まるで経穴を押さえられたかのように、その場に立ち尽くし、一寸も動けなくなった。心の中の喜びと想像していた幸せは、まるで煙のように消え去り、代わりに誰かに頬を強く打たれたような痛みが残った。
彼はしばらくその場に立ち尽くした後、やっと一歩を踏み出し、しゃがんで花束を拾い上げた。
確かに、その花束は鈴木和香にとっては大したものではなく、今の彼にとってもそれほどの出費ではない。しかし、当時の彼にとっては、ドラマ数話分の出演料に相当するものだった。
細かい雨が強くなってきた。彼は花を整えようとした。まるでそうすることで、散り散りになった心も元に戻せるかのように。しかし無駄だった。その艶やかな花々は激しく叩きつけられ、踏みにじられすぎていた。指で触れると、花びらはさらさらと地面に落ちていき、最後には枝だけが手の中に残った。
彼の指先は長い間震えていた。やがて二つに引き裂かれたカードを拾い上げ、つなぎ合わせた。「あなたがいる季雄こそが、安寧」という彼の書いた言葉が目に入った。雨水で油性ペンのインクが少し滲んでいた。
どれくらいその場でぼんやりとしゃがんでいたのかわからなかった。突然、背後で車が止まる音がし、続いて車のドアが開き、足音が近づいてきて、彼の後ろで止まった。「失礼いたします」
彼は感情を抑え込み、ゆっくりと立ち上がった。手にはまだ花の枝を握りしめたまま、振り返ると、そこには椎名家の執事がいた。
執事は彼の返事も待たずに、後ろの車を指差して言った。「ある場所までご同行願えますでしょうか。奥様がお会いになりたいとのことです」
執事の言う奥様が赤嶺絹代を指していることは明らかだった。赤嶺絹代は昔から彼を死ぬほど嫌っていた。会って良いことなどあるはずがない。彼はその場に立ち尽くしたまま動かなかった。