彼は黙っていた。
赤嶺絹代も彼の話を聞く気はなく、目の前の大画面を見つめながら、優雅に落ち着いた様子で話を続けた。しかし、その一言一言が鋭い刃物のようだった。
「でも諦めた方がいいわ。あなたが知らないことがあるの。それは、私たち椎名家と鈴木家は昔から婚約があるということよ。」
「こう言えばわかるかしら。簡単に言うと、佳樹と和香には婚約があるの。つまり、和香は佳樹の婚約者で、将来は佳樹と結婚することになっているわ。それに、あなたが知らないかもしれないけど、和香と佳樹は今、お互いを愛し合っているのよ。」
「それに、あなたのような何もない隠し子が、どうして和香を愛する資格があるというの?」
「忘れないでほしいけど、和香は鈴木家の娘よ。たとえ両親を亡くしても、彼女が今は孤児だとしても、名門の令嬢という事実は変わらないわ。彼女が持っている遺産と鈴木グループの株式は、あなたが一生かけても稼げないほどのものよ!」
「でも私たちの佳樹は違うわ。椎名家の後継者で、和香とは才色兼備で天が結んだ縁よ。」
赤嶺絹代がこう話している間、来栖季雄は目の前の大画面で、鈴木和香と椎名佳樹が古い恋愛ソング『男と女のラブゲーム』をデュエットしているのを見ていた。画面は無音だったので、彼らの歌声は聞こえなかったが、二人が並んで立っている姿は、赤嶺絹代の言う通り、まるで天が結んだ縁のように見えた。
「今夜あなたを呼び出したのは、和香に対する無駄な想いを捨てなさいと言うためよ!」
「あなたのお母さんは、恩を知り、恩返しをすることの大切さを教えたはずよ。忘れないで、あなたが今まで生きていられるのは、私の息子の佳樹が骨髄を提供してあなたの命を救ったからよ。もし私の息子がいなければ、あなたはとっくに死んでいたはずよ!」
「命の恩人への恩返しが、恋人を奪うことなの?」
赤嶺絹代は一気に話を終えると、もう何も言うことはないといった様子で、監視室のドアの方へ向かった。ドアの前まで来たとき、突然何か思い出したかのように立ち止まり、ゆっくりと振り返って彼の目を見つめ、完全な嫌悪感と軽蔑を込めて言った。「佳樹がこれまでどれだけあなたに尽くしてきたか、あなたはよくわかっているはず。あなたのお母さんが他人の第三者になったように、あなたまで第三者になるようなことはしないでほしいわ!」