第319章 椎名佳樹に反応があった(19)

運転手は車を停め、先に降りて鈴木和香のためにドアを開け、彼女が降りるのを待ってから車の後ろに回り、トランクを開けて赤嶺絹代が和香のために用意した二箱の燕の巣を取り出しました。少し重かったので、運転手は丁寧に声をかけました。「君、どの部屋にお住まいですか?お持ちいたしましょう」

鈴木和香は運転手の両手に持たれた箱を見て、小さな声で「ありがとう」と言い、ホテルのロビーに向かって歩き始めました。運転手は箱を持ちながら、和香の後ろ二歩の距離を保って丁重についていきました。

二人とも気づいていませんでしたが、近くに停まっている車の中に、一人の人が座っていました……

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来栖季雄は鈴木和香を病院に送った後、ずっと離れることができませんでした。11時頃、和香が赤嶺絹代の車に乗るのを見て、頭の中がぼんやりとして何も考えられず、車の中で長い間座っていました。やがてハンドルを回し、目的もなく走り出し、夕暮れ時になってようやく撮影所のホテルの前に戻ってきました。部屋には上がらず、車の中で4時間も待ち続け、バックミラーを通して見覚えのある車が近づいてくるのを見ました。

それは椎名家の車でした。

車はホテルの正面玄関に停まり、まず椎名家の運転手が降りて、丁寧に鈴木和香のためにドアを開け、その後トランクから二箱の何かを取り出し、和香についてホテルに入っていきました。

おそらく椎名家が和香に持ってきた栄養剤のようなものでしょう。椎名家は和香にずっと良くしてくれていて、まるで家族のようでした。もし椎名佳樹が目を覚ましたら、彼らは本当に完璧な家族になるのでしょうね。

来栖季雄は窓を開け、タバコに火をつけ、煙を吐き出しながら、骨の髄から湧き上がってくる言いようのない痛みを感じていました。

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馬場萌子はホテルの部屋にいませんでした。運転手は荷物をホテルの空きスペースに置くと、丁重に別れを告げて去っていきました。

鈴木和香は一日中何もしていませんでしたが、言いようのない疲れを感じていました。熱いシャワーを浴びた後、ベッドに潜り込み、うとうとし始めた時、ホテルのドアが開き、馬場萌子の声が聞こえてきました。「燕の巣だ!和香、食べていい?」