第351章 2つの「愛してる」(7)

鈴木和香は記者を見つめて瞬きをした。長いまつ毛が蝶の羽のように二度はためいた後、真面目な表情で口を開いた。「私の好きな人は、来栖社長です」

傍らに座っていた来栖季雄は、脚付きグラスを持ち、優雅に赤ワインを口に含んだところだった。まだ飲み込む前に、鈴木和香の言葉が一字一句はっきりと彼の耳に届いた。

私の好きな人は、来栖社長です……

来栖季雄はワイングラスを持つ手が激しく震え、口に含んでいた赤ワインが喉元で止まってしまった。心臓の鼓動が一瞬で極限まで加速し、今にも胸から飛び出しそうだった。全力でワイングラスを握りしめ、呼吸を止めて、必死に冷静さを保とうとしたが、指先は抑えきれずに微かに震えていた。

記者も鈴木和香の率直な答えに驚き、インタビューが始まってから今まで素早く反応していた頭が、この瞬間フリーズしてしまい、呆然と鈴木和香を見つめ、一言も発することができなかった。

鈴木和香は表面上、優雅で美しい笑顔を保ち、澄んだ目で記者を見つめていたが、心の底では苦い思いが広がっていた。

最初から最後まで、彼女は来栖社長ただ一人を好きでいた。何年経っても変わることはなく、変えようとも思わなかった。でも、この想いを口に出す勇気は、これまで一度もなかった。

先ほど記者の質問を聞いた時、「まだ心動かされる人に出会っていません」とか「私も誰を好きになるのか気になります」といった万能な答えで返そうと考えていた。しかし、まさに口を開こうとした瞬間、頭に閃きが走り、本心を口にしてしまった。

私の好きな人は、来栖社長、来栖季雄社長です。

この言葉が、彼女の頭の中で、心の中で、何度も何度も響いていたことか。

五年ぶりに彼と再び近づいてから、彼女は彼の前で自分の気持ちを明かす勇気がなかった。むしろ、もう告白する機会はないと思っていたほどだった。まさか今、こんな形で口にする機会が訪れるとは思ってもみなかった。

本心を語った後は、冗談に変えなければならないことを、彼女は分かっていた。

鈴木和香は必死に唇の端を上げ、カメラの前での笑顔が悲しげで苦々しく見えないよう努めながら、軽い調子を装って沈黙を破った。「さっきも仰ったように、来栖社長は国民的夫として認められていますから、こんな方が側にいるのに、他の人が好きだなんて言ったら、説得力がないでしょう」