第351章 2つの「愛してる」(7)

鈴木和香は記者を見つめて瞬きをした。長いまつ毛が蝶の羽のように二度はためいた後、真面目な表情で口を開いた。「私の好きな人は、来栖社長です」

傍らに座っていた来栖季雄は、脚付きグラスを持ち、優雅に赤ワインを口に含んだところだった。まだ飲み込む前に、鈴木和香の言葉が一字一句はっきりと彼の耳に届いた。

私の好きな人は、来栖社長です……

来栖季雄はワイングラスを持つ手が激しく震え、口に含んでいた赤ワインが喉元で止まってしまった。心臓の鼓動が一瞬で極限まで加速し、今にも胸から飛び出しそうだった。全力でワイングラスを握りしめ、呼吸を止めて、必死に冷静さを保とうとしたが、指先は抑えきれずに微かに震えていた。

記者も鈴木和香の率直な答えに驚き、インタビューが始まってから今まで素早く反応していた頭が、この瞬間フリーズしてしまい、呆然と鈴木和香を見つめ、一言も発することができなかった。