第352章 2つの「愛してる」(8)

「あぁ……」記者は来栖季雄の言葉を聞き終わると、すぐに驚きの声を上げ、相変わらず面白おかしく二人を冗談めかして言った。「鈴木さんと来栖社長は相思相愛のようですね。それでは来栖社長と鈴木さんの愛が末永く続きますように……」

記者は適度なところで止め、口調を真面目にした。「もちろん、今のは皆さんと冗談を言っただけです。さて、今日のインタビューはここまでとさせていただきます。来栖季雄と鈴木和香が出演する『傾城の恋』をぜひご期待ください」

記者の言葉に続いて、来栖季雄と鈴木和香は前後してカメラに向かって「さようなら」と言った。

鈴木和香は来栖季雄が先ほどの自分の冗談に合わせただけで、あんな情熱的な言葉を言ったのだと分かっていた。でも彼女の心は少し動揺せずにはいられなかった。彼女の本心が冗談になってしまったけれど、彼の冗談を本心だと想像することはできた。

来栖季雄は鈴木和香が記者の質問に答えるために、茶目っ気たっぷりに自分のことが好きだと言っただけだと分かっていた。冗談であっても嬉しかった。なぜなら、それは彼の人生で唯一彼女の口から聞ける甘い言葉かもしれないから。残念なことに、彼女は知らない。彼の返事はインタビューに合わせたものではなく、本心だったということを。

この世界には、どれだけの本心が最後には冗談になってしまうのだろう?そしてどれだけの冗談が、言えない本心なのだろう?

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インタビューが終わり、すでに7時になっていた。ちょうど夕食時で、監督は皆を帝国グランドホテルでの夕食に案内した。

来栖季雄は急な電話を受け、緊急会議があるため環映メディア株式会社に戻る必要があり、先に退席した。

会議は長くなかった。来栖季雄が全ての仕事を終えて会社を出たときは、まだ夜の9時だった。

一日の忙しさのせいか、来栖季雄は少し疲れた様子で、車に乗るとすぐに後部座席に寄りかかり、目を閉じて休んでいた。

助手は来栖季雄を邪魔しないようにし、ただ車を発進させて会社の地下駐車場から出た。本線に出たとき、助手が来栖季雄にどこへ向かうか尋ねようとした矢先、来栖季雄の携帯電話から通知音が鳴った。