-
帝国グランドホテルで食事をしているとき、監督がカラオケに行こうと提案した。撮影がもうすぐ終わるため、これからみんなで集まれる機会は少なくなるだろうということで、誰も反対せず、食事が終わった後、午後10時半頃、一行は近くの「金色宮」へと車を走らせた。
鈴木和香は松本雫と田中大翔の車に同乗し、途中で給油したため「金色宮」に最後に到着した。個室に入ると、和香は食事前に用事があって先に帰った来栖季雄が、なんと既にそこにいるのを見かけた。大画面の前で優雅な姿勢で立ち、iPadのメニューを手に持ち、スタッフに飲み物を注文していた。彼らが入ってくるのを見て、顔を上げ、和香を一瞥した。
監督は三人が入ってくるのを見て、すぐに曲選択機を指差して手を振った。「さあさあ、三人とも曲を入れて。一人最低二曲ずつね」
「和香ちゃん、私の分も入れてくれる?」松本雫は和香に二曲のタイトルを告げた。
来栖季雄は松本雫が和香に指示を出すのを聞いて、眉間にしわを寄せ、タブレットでロイヤルサルートを一本注文しながら、顔を上げて松本雫を横目で見た。
松本雫は来栖季雄の視線に気付くと、わざとらしく、さらにもう一曲のタイトルを告げ、和香に気さくに「ありがとう」と言って、近くのソファに座り、挑発するように来栖季雄を睨み返した。
和香は先に松本雫の歌を入れてから、自分の歌を一曲選び、そして曲選択機の近くの席に座った。ドラマの女三号が和香が座るのを見て、すぐに親しげに声をかけてきた。和香が女三号と二言三言話し始めたところで、誰かが隣に座るのを感じた。振り向く前に、女三号が少し改まった様子で隣を見て「来栖社長」と笑顔で呼びかけた。
来栖季雄は女三号の挨拶に冷淡な表情でうなずいて応えただけで、それから手にしていたiPadを和香の前に差し出し、淡々と尋ねた。「何か食べる?」
和香は先ほど夕食を食べたばかりで食欲がなく、首を振った。
来栖季雄も無理強いせず、iPadを見つめながら、フルーツ盛り合わせを二つとナッツ類を注文し、恭しく待機していたスタッフにiPadを渡した。
注文した物はすぐに運ばれてきた。誰が注文したのか、ビール、ワイン、洋酒と様々な種類のお酒が揃っていた。
監督は気前よく、まずスタッフに全員のグラスに洋酒をいっぱいに注がせ、乾杯を提案した。