「結構です」鈴木和香は最初にきっぱりと断り、その後来栖季雄の唇が引き締まるのを見て、彼女の心臓も一緒に縮んだような気がした。全身に痛みが広がり、牛乳のカップをぎゅっと握りしめ、まぶたを伏せたまましばらく黙り込んでから、ゆっくりとした口調で続けた。「私、燕の巣はあまり好きじゃないんです。この前、椎名家に行った時に椎名おばさんが私にくれたものなんです。馬場萌子にも少し分けて、残りの数本を持って帰ってきただけです」
やはり燕の巣は赤嶺絹代が鈴木和香に持ってきたものだった……階下にいた時から彼はそう予想していたが、ただ彼女の口から確認が欲しかっただけだった。さらに先ほど彼女は、睡眠の質が良くないとも言っていた……
来栖季雄の頭の中に、突然大胆な仮説が浮かんだ。しかし、この仮説にも確信が持てなかった。これまでの年月、彼と赤嶺絹代の関係は水と油のように相容れなかったため、おそらく彼の考えすぎかもしれなかった。