来栖季雄は軽く口角を上げただけで、声を出さなかった。部屋の中は静かで、床に置かれたろうそくが燃える微かな音が聞こえるほどだった。しばらくして、来栖季雄はようやく口を開いたが、鈴木和香の名前を呼んだだけで言葉を止めた。「和香……」
鈴木和香は不思議そうに目を上げ、来栖季雄を見つめた。「うん?」
来栖季雄は複雑な眼差しで鈴木和香を見つめていた。実は、自分が好きな人は彼女だと伝えたかったが、それを言ってしまえば友達としての関係さえも失うかもしれないと恐れていた。
完全な喪失を経験したからこそ、同じ過ちを繰り返したくなかった。彼女のいなかったあの五年間は、あまりにも虚しく無力な日々だった。
来栖季雄の心は混乱の渦中にあった。しばらくして、咳払いをしてから言った。「君は誰からも愛される価値のある素晴らしい女性だよ。」