タクシーは市立総合病院の玄関前で停車し、来栖季雄は料金を支払い、鈴木和香を抱きかかえて降り、病院の中へ歩いて入っていった。
鈴木和香は5時間ぶりに訪れた市立総合病院を見つめながら、あの女性看護師が今日は彼女の再検査の日だと告げたことを思い出し、心の中で言い表せない不安を感じ始めた。
以前、鈴木和香が撮影現場で事故に遭った時も、来栖季雄は彼女を病院に連れて来て、全身検査を受けさせた。今回も同じように、来栖季雄の表情からは普段と変わった様子は見られなかった。
午後の病院は午前中に比べて少し空いていた。来栖季雄は彼女を休憩用の椅子に座らせ、一人で受付に並びに行った。受付の手続き中、彼が携帯電話で誰かに電話をかけているのが見えた。病院のロビーは騒がしく、彼の口の動きも見えなかったため、誰と話しているのかわからなかったが、なぜか気になって落ち着かなかった。
鈴木和香は怪我をしていなかったので、休憩椅子に座って少し考えた後、立ち上がって来栖季雄の方へ歩いていった。彼の近くまで来た時、彼は彼女に気付き、無表情のまま電話で二言三言話して切り、眉をひそめて彼女を見た。「どうして来たの?どこか具合が悪いの?」
鈴木和香は首を振り、来栖季雄に微笑みかけた。「私は大丈夫よ、ただちょっと驚いただけ。あなたは?怪我してない?」
来栖季雄の表情が少し和らぎ、「俺は大丈夫だ」と答えた。
鈴木和香は瞬きをして、優しい声で尋ねた。「私たち二人とも大丈夫なら、検査はやめにしない?私、かすり傷一つないのよ。」
鈴木和香がそう言った時、来栖季雄をまっすぐ見つめた。男性の表情は水のように穏やかで、何の変化もなく、何か意図があるようには全く見えなかった。波一つない静かな声で「念のため、検査はしておこう」と言った。
鈴木和香は来栖季雄に微笑みかけ、もう争わなかった。「わかったわ。」
受付を済ませると、来栖季雄は鈴木和香を連れて直接上の階へ向かった。前回の撮影現場での事故の時と同じように、鈴木和香は全身検査を受けることになった。検査の過程で特に変わったことはなく、鈴木和香の心は次第に落ち着いていき、看護師の言葉に神経質になりすぎていたのかもしれないと思い始めた。
鈴木和香は多くの検査を受け、全て終わった頃には夕方になっていた。