鈴木和香はようやく階段を降り、来栖季雄の前まで歩いて行き、彼を一瞥してから身を屈めて車に乗り込んだ。シートベルトを締めようと手を伸ばした時、来栖季雄が身を乗り出して先に手伝ってくれた。
来栖季雄は運転席に座り、シートベルトを締めると、鈴木和香に馬場萌子の住所を尋ねた。カーナビに住所を入力しようと身を屈めた時、指が震えて何度も打ち間違えてしまった。ようやく正しい住所を入力できた後、車を発進させようとしたがブレーキを踏んでしまい、しばらく呆然としていた。やっと我に返り、慌ててペダルを踏み替え、ハンドルを回して桜花苑を出た。
道中、二人は一言も交わさなかった。唯一の会話らしきものは、鈴木和香が携帯で馬場萌子に音声メッセージを送り、30分ほどで到着すると伝えた時だけだった。