第506章 嫁げないなら、僕が娶ろう(6)

「神剣」の撮影が始まった初日から、椎名佳樹は遠路はるばる大泉撮影所まで松本雫を訪ねて行ったものの、逆に彼女に怒らせて追い返されて以来、二人の間には何の接点もなくなった。

世間で噂されているように、椎名佳樹は最近、確かに林武幸の孫娘である林千恵子とよく会っているようだった。

椎名佳樹が林千恵子と知り合った頃、彼女はまだ十歳の少女で、彼の後をついて回り、「佳樹兄」と呼びかけては彼を特に煩わせていた。ほら、林千恵子が中学生の時に両親と共に沖縄へ引っ越してから、やっと解放された。

彼が松本雫に大泉撮影所から深夜に怒らせて東京に追い返された後、腹立ちまぎれに渋谷のバーに行った時、林千恵子と再会したのだった。

当時彼は酔っ払っていて、林千恵子が彼の前に現れて「佳樹兄」と呼びかけた時、彼はぼんやりと彼女を見つめ、誰だか分からなかった。最後に彼女が自己紹介をして、やっと記憶を絞り出して思い出した。

林千恵子は彼の携帯を奪い取り、自分に電話をかけて、彼の電話番号を保存すると、ダンスフロアへ行き、その夜一緒に来たクラスメートと遊びに行った。

翌日、林千恵子から電話がかかってきた時、彼はまだ少し呆然としていて、この子がどうやって自分の電話番号を知ったのか不思議に思った。

彼は林千恵子が小さい頃から、彼女の姫様のような甘えた性格が特に嫌いで、当時両親に叱られるのが怖くなければ、彼女と遊ぶことすら嫌だった。今でも同じで、彼女からの電話を受けた時、適当に二言三言話して切ろうとしたが、突然携帯にリマインダーが表示された。それは彼と鈴木和香との早期離婚についての件だった。

そこで彼は思いつき、林千恵子ともう少し話を続け、その後も二回ほど一緒に買い物に行き、何度か食事もした。

今日、彼が林千恵子と帝国グランドホテルで食事をすることになったのは、全くの偶然だった。

林千恵子は彼の行動予定をどこからか入手し、会社まで彼を訪ねてきた。彼は本来彼女を学校まで送るつもりだったが、久しぶりに松本雫と華陽グループの副社長が帝国グランドホテルに入るのを見かけた。そこで彼は突然思いつき、映画を見に行きたいとねだって断られ、ずっと不機嫌だった林千恵子に食事を提案した。

松本雫と華陽の副社長がロビーに座っていたので、椎名佳樹もロビーを選び、わざと松本雫のテーブルのすぐ隣の席に座った。